2026.10.15
生活の禅語 「冷暖自知」
禅語とは、より良く生きるための禅の教えを説いた言葉です。忙しない日々のなかでふと立ち止まり、自分と向き合う時間を持つ。そのきっかけとなる禅語を、西芳寺の副住職・藤田隆浩が紹介します。
冷暖自知とは、「水が冷たいか温かいかは、自分で触れてみなければわからない」という、体験する価値を説いた禅語です。
例えば、18℃の水に触れたときのことを想像してみてください。
これは冷たいのでしょうか、温かいのでしょうか。
おそらく夏なら冷たく感じますし、冬なら温かく感じるでしょう。温度という絶対的な指標があっても、タイミングによっては感じ方が変わるということです。

修行の際に、このことを実感したエピソードがあります。先ほど例に挙げた18℃とは、井戸水の温度のこと。井戸水は、年間を通してほぼ一定の温度です。修行道場にはエアコンがありませんので、このお水の温度の尊さに気が付きました。
近年では「タイパ」という言葉が流行っているとおり、時間をかけずに成功することが良しとされています。AIに聞けば、どんな疑問や要望でもすぐに答えてくれます。
ですが、成功している時よりも失敗している時、便利な時より不便な時のほうが、得られるものが多いのではないでしょうか。効率性が重視されている時代だからこそ、自分で体験するというこが、改めて求められているように思います。
こうした、本来避けたいはずの不便の効用を活かすことの大切さを説いた「不便益」という言葉があります。西芳寺にも来てくださったことのある京都先端科学大学の川上浩司教授が提唱されている概念で、「不便益システム研究所」のWebサイトには、以下のように書かれています。
不・便益ではありません。不便の益 (benefit of inconvenience) です。
不便で良かったこと、ありませんか?
便利とは,手間がかからず,頭を使わなくても良いことだとします. そうすると,不便で良かった事や,不便じゃなくちゃダメなことが,色々と見えてきます.
【不便益】
● 富士山の頂上に登るのは大変だろうと,富士山の頂上までエレベーターを作ったら,どうでしょう.よけいなお世話というより,山登りの本来の意味がなくなります.
● ヒットを打てるように練習するのは大変だろうと,だれでも必ずヒットの打てるバットを作ったら,どうでしょう.これも同じですね.
● 私が子供の頃,遠足のおやつは300円以内でした.もし,自由に好きなだけおやつを持ってきても良かったとしたら,どうでしょう?遠足前日に半日をつぶしてスーパーをうろつき,自分ならではの組み合わせを考え抜いたのは,今思えば楽しい思い出です.
● 就職氷河期に,就活超勝ち組の学生がいました.コツを聞いたところ,新聞を取るのを止めたのだそうです.勝手に配達+口座引落しという便利方式を止めて,毎朝コンビニに行ってキャッシュで新聞を買う.これがコツだとのこと.
「なるほどな、確かにそうだな」と思うことは、ありませんでしょうか。
使えるところはAIを使えばよいですし、効率も大切にしたらよい。
ですが、生産性ばかり求めていては、生きる豊かさを失ってしまいます。
どんなことも、自分で見て、聞いて、体験して、自分からどんどん挑戦していく。もしかすると、うまくいかないことや面倒くささを感じることがあるかもしれません。
ですが、そうした経験のなかで、人生がより豊かで面白くなっていくこともあるはずです。
合掌
洪隠山西芳寺 藤田隆浩