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2023.6.1

西芳寺を継ぐ手しごと 「庭園部」

変化を楽しみ、庭園と生きる

西芳寺を継ぐ手しごと

“Moss Garden”としても世界的に知られる西芳寺。多くの参拝者を出迎えるために寺院や庭園は多くの人や技術によって支えられています。西芳寺に携わる方々の仕事の中から、文化を支えるとはなにか、歴史をつなげるとはなにか、を探ります。

初回は、西芳寺の庭園部です。庭園整備などを外部の造園業者に依頼する寺院が多い中、西芳寺は半世紀以上前から、庭園部として、専属の庭師を抱えています。彼らは、毎日庭園や境内の状況を確認し、その日の最良の状態で参拝者を出向かえられるよう、整備に努めています。今回は、庭園部の宮崎浩司さんに、仕事の中で学んだことや気付きを伺いました。

宮崎 浩司
兵庫県神戸市出身。造園会社に入社し、公園や街路樹の整備などを経験する。その後、2015年より西芳寺の庭園部に所属。苔の箒き仕事を中心に、植木の手入れや竹垣づくりなど、庭園の整備にまつわる全般の作業を行う。

自問自答を日々繰り返しながら、仕事をする

ー宮崎さんが、西芳寺の庭園部に所属されたきっかけを教えてください。

私は以前、公共緑地の造園業に携わっていました。公園や街路樹などを整備する仕事です。もう少し異なる角度から自然と向き合いたいと思っていた中で、偶然、新聞に掲載されていた広告で求人を見つけ、応募しました。2015年から働き始めたので、9年目になりますね。 ※2023年4月取材日時点

ー「自然に関わる仕事」という共通点がありますが、前職と今で異なる点はありますか。

仕事への考え方がまったく違います。前職では予算やスケジュールが明確に決まっていたので、納期に向けてどれだけ効率よく作業できるかが大切でした。
ですが、西芳寺では、自ら仕事の進め方を考えなくてはいけません。急ぐのではなく、日々自問自答を繰り返しながら、丁寧に、そして庭園や自然と対話しながら仕事をするよう心がけています。

ー日頃、庭園部ではどのような仕事をされているのでしょうか。

私たちの仕事は、朝、庭を一周するところから始まります。境内を毎日見て、日々の変化を感じながら、その日すべき事を決めているんです。

苔の手入れで大切なのは、光や水が行き渡る環境をつくること。日光や夜露にあたって、苔が蒸れないように掃除をします。

また冬の間は、苔を休めるために、基本的に箒き仕事はしていません。手入れを始めるのは3月から。春先は苔が1年分のエネルギーを蓄える大切な時期と言われているので、箒き始めのタイミングを見計らいながら、一気に箒くようにしています。

また、苔の周りを箒くだけでなく、庭園全体の整備も行っています。夏や秋は、除草作業のほか、植木の手入れや池の掃除をすることもあります。

ー箒き仕事には竹箒を使っていますが、こだわりがあれば教えてください。

主に硬さの違う3種類の竹箒を使い分け、箒き方も変えながら行います。箒くときは、落ち葉だけを引っかけるような感覚ですね。強すぎると苔を剥がしてしまいますから、力はあまり必要ありません。
また、庭園には、約120種類の苔があると言われています。それぞれに適した掃除をするには、「ブロア(風で落ち葉を飛ばす機械)」よりも、やはり昔ながらの竹箒が最適だと考えています。箒き仕事は箒くという作業だけでなく、その場の苔や生きとし生けるものに心を寄せることが大切だからです。

箒づくりも、境内の竹を使って、私たちの手で行います。竹を切り出し、枝をうち、乾燥させてようやく箒をつくることができるんです。手をかけた道具には愛着も湧きますし、何より良い仕事は道具を大切にすることから始まると考えています。

自然には、抗わない

ー自然を相手にする仕事だと、予定通りにいかないことも多いのではないでしょうか。

その通りです。例えば雨の日に掃除をしようとしても、苔に落ち葉が張り付いているので、綺麗に箒き取ることができません。余分な力を使うと、苔にも身体にも負荷がかかってしまいます。ですから、そういう日は園路の整備などの最低限の手入れにとどめ、 道具の整備をしたり、掃除の計画を練ったりするようにしています。

また過去には、イノシシなどの動物や台風によって、大きな被害を受けたこともありました。荒れてしまった苔は、出来るだけすぐに元に戻します。剥がれた苔をそのままにしていると枯れてしまいますが、地面と接していると水分が補給され、苔同士が絡みつき、元に戻ってくれるんです。まさに苔の生命力を感じる瞬間ですね。

自然には抗えませんし、抗うものでもありません。そこに目くじらを立てても仕方がありませんから。季節や天気に合わせて無理のない仕事を選び、備えるようにしています。

ー日々変化していく自然と向き合うために、心がけていることはありますか。

「自然は生き物だ」と理解すること。そして完璧を目指しすぎないことでしょうか。

昔は参拝者の方の目を気にしすぎて、少々の落ち葉でも箒き仕事をしていた時期がありました。しかし、やりすぎてしまうと、当然苔は傷んでしまいます。どれだけ完璧な状態をつくれたとしても、一晩経てば葉が落ちて、すぐに元通りになります。

それに、葉が一枚も落ちていない庭というのは、少し不自然だと思いませんか?季節を感じていただくためにも、すぐに箒き取らないようにしています。西芳寺の庭園は、苔だけでなく様々な花木が咲く場所ですので、ぜひ季節折々の自然を楽しんでいただきたいです。

今は、過去と未来の中間地点

ーこのような仕事への姿勢は、どのように培われてきたのでしょうか。

長年、西芳寺では自分たちの手で庭園を管理することを大切にしてきました。掃除のやり方は変化し続けていますが、その中で育まれてきたのは心の部分だと思います。

私が西芳寺に入りたての頃、仕事の様子を見ていた方丈さん(住職の呼び名)から「箒き方が荒い」と指摘されたことがありました。もちろん、そんな意識はなかったのですが、「これだけ庭が広いんだから、早く綺麗にしなければいけない」という焦りが、ついつい身体の動きに出てしまっていたんだと思います。

私が働き始めてからすぐに、庭園部の先輩が定年退職をしてしまったので、一年間しかご一緒できませんでした。ですので、今の仕事のやり方は、先輩から学んだことを元に試行錯誤しながら私なりにかたちにしたものです。もしまたお会いできることがあったら、「どうですか?」と伺ってみたいですね。

ー試行錯誤を繰り返してきたとのことですが、仕事を通して得た学びがあれば教えてください。

西芳寺では毎月1回ほど、お寺の職員全員で坐禅を行っています。それをきっかけに、禅と仕事とのつながりを考えるようになりました。

その中で、「調身(ちょうしん)・調息(ちょうそく)・調心(ちょうしん)」という禅の基本を学びました。私も気持ち良く箒き仕事ができていると感じるときは、所作や呼吸が整っており、視界が広がっていることに気がついたんです。反対に心の乱れは、仕事への姿勢や成果に、すぐ悪い影響をもたらします。箒で苔の上を箒くときは、外面にある落ち葉だけでなく、自分自身の内面にも意識を向けることが大切だと感じています。

ー宮崎さんにとって、西芳寺の庭園はどのような場所でしょうか。

私にとって、庭は「気づきの場」です。

坐禅で「放下着(ほうげじゃく)」という言葉を学びました。これは「思い込みや執着を捨てよ」という考え方です。今振り返ると、効率ばかりを求めていた当時の私を叱りたくなるときがあります。自然や生き物と相対する仕事なのに、そんなに焦ってどうするんだ、と。そんな風に思えるのも、過去の考えを手放すことができたから。私は長年、自然に関わる仕事をしてきましたが、このような気付きを得られたのは、西芳寺で仕事をしているからこそだと思いますね。

ー最後になりますが、西芳寺の庭園を未来に引き継いでいくために、どのようなことが大切だと考えていますか。

それぞれの時代で、求められている最善を尽くすことだと思います。日々私たちがやっているのは、維持管理の仕事。今の庭園を、次世代へ引き継いでいく、過去と未来との中間地点にいます。

また、「これは完璧だ」といえるものに行き着いたとしても、それは一時的なものにすぎません。新しい気づきを見つけたときは、今のやり方や考えを捨てるときがくると思います。それは5年先、10年先かもしれませんし、明日になるかもしれません。日々の変化を楽しみながら、数多の先人たちが守り抜いてきた庭園を未来に引き継いでいけるよう、庭園部として精進していきたいと思います。

編集:宮内 俊樹・俵谷 龍佑
執筆:小黒 恵太朗
写真:進士 三紗
※許可を得て撮影しています。



*庭園部の仕事に興味を持った方へ*

西芳寺では、日々変化する自然と丁寧に向き合いながら、数多の先人たちが守り抜いてきた庭園を未来へつないでいく仲間を探しています。
庭園部の仕事にご興味がありましたら、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

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