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2023.7.20

西芳寺を継ぐ手しごと
「寺務員」

今日の仕事が、西芳寺の明日をつくる

西芳寺を継ぐ手しごと

“Moss Garden”としても世界的に知られる西芳寺。日々参拝者を出迎えるために寺院や庭園は多くの人や技術によって支えられています。西芳寺に携わる方々の仕事の中から、文化を支えるとはなにか、歴史をつなげるとはなにか、を探ります。

第二弾は、西芳寺の寺務員です。参拝の受付や案内をするだけでなく、西芳寺の顔として、様々な業務を行っています。今回は寺務員の谷口浩一さんに、仕事を通して得た学びや気づきを伺いました。

谷口 浩一
京都府京都市出身。1987年2月より西芳寺に勤める。以来35年以上、寺務員として働く。現在は最年長の寺務員として、チームをまとめている。

西芳寺での、すべての時間が学びになる

ー谷口さんが、西芳寺で働き始めたきっかけを教えてください。

私は社会人になりたての頃、眼鏡店で働いていました。全国転勤がある仕事で、金沢や富山で勤務していたんです。その後、家庭の事情により、仕事を辞めて京都に戻ってくることになりました。そんなとき、たまたま西芳寺の求人を新聞で見つけて。まだ、23歳のときでしたね。

ー西芳寺に入ろうと思った理由や決め手はありましたか。

京都に帰ってきて、友人からいくつか仕事を紹介してもらいました。ただ営業成績や売上など数字を気にしなければいけないものが多く、正直できるか不安だったんです。私は、まったく仏教や禅の世界のことを知らなかったものの、お寺なら心静かに働けるのではないか。そんな漠然とした思いから応募しました。先代の住職に面接していただいたのですが、後から聞いたところによると採用は即決だったようです。めぐり合わせが良かったのかもしれませんね。

ー実際に西芳寺で働かれてみて、いかがでしたか。

寺務員の仕事は、参拝者のご案内や境内の掃除など、多岐にわたります。そのどれもが初めてで、最初はとても緊張していましたね。お寺の説明をしたり、木魚を叩いたりするなんて、これまで経験がないわけですから。

ですが、参拝者からは「この人は新人だから」と、甘い目で見てもらえません。西芳寺という大きな看板を背負っているわけなので、いい加減なことはできません。「誰にどう聞かれても、先輩と同じように対応したい」という考えはありましたので、一生懸命に勉強し、誠実に仕事をするしかないなと思っていました。

ー谷口さんは、これまで日々禅や仏教について、どのように勉強したのでしょうか。

毎日、西芳寺にある仏教書を読んだり、休みの日には図書館に行ったりして、禅や仏教について学びました。ただそれ以上に、西芳寺という場所が私にもたらしてくれたものが大きかったです。

例えば住職が「書」を書かれる時、傍らでよく見せていただいたものです。
どのように墨を磨くのか。何の紙に、どんな筆運びで書くのか。朱肉はこう付けるのか。落款(らっかん)の押し方は......。
気が付けば息をつめて見ていたものでした。学校でも習字の時間はありましたが、この西芳寺という場所だからこそ、より深く学べるものがあるんだと、書かれた禅語の意味を探りながら思ったものです。

作法も礼儀も文化も自然も、西芳寺で出会うものには驚きと発見があり、ここで過ごす時間のすべてが学びとなり、気がつけば世界が広がっていた。そういうことの繰り返しでしたね。

人と西芳寺の間を、つなぐ役割

ー寺務員として働いてきた谷口さんが、仕事の中で心がけていることはありますか。

誰に対しても、誠実でいることでしょうか。お寺で働くとは一体どういうことだろうと考えたとき、参拝者をお客さん扱いして、もてなすだけではいけないと思うんです。

私たちも、ときには「このルールは守ってください」「こういった考え方もありますよ」などと、毅然とした態度で物事を伝えることがあります。寺務員だから、参拝者だからという立場ではなく、西芳寺に集う者として、対等で誠実に接することが大切だと思います。

ー誠実に、そして「毅然と対等に」ですね。

そうです。「毅然と対等に」「マイナスを作らない」「日々の良さを伝える」「観察し心を寄せる」と、大切にしたい思いを4つの言葉にまとめ、寺務員の中で共有をしています。近年は、一緒に働く仲間も増え、しっかりと話し合う時間もできたので、西芳寺をより良くしていけるのでは、という機運が高まっていますね。

ー働いている中で、嬉しい瞬間はありますか。

参拝に来られた時と、帰られる時の顔つきが全く違う方がいらっしゃるんですよ。もちろんマイナスのイメージではなく、「参拝してよかったな」と晴ればれとした表情になっているんです。参拝したからこそ、気づいたり向き合ったりできるものがありますよね。きっかけを作るお手伝いができたようで、とても嬉しい瞬間です。

ーずばり、寺務員の役割とはどういったことでしょうか。

私たちの仕事を振り返ったとき、人と西芳寺をつなぐ役割があるんだと思っています。実際に参拝にお越しいただける方、足を運びたくても様々な事情で参拝にお越しいただけない方、参拝だけでなくそれぞれの形で西芳寺を支えようとしてくださる方。そんな方々と西芳寺をつなぐために何が出来るかを考え、日々励んでいます。

我々とのやり取りの中で、西芳寺という存在をより身近に感じ、心の中に留めていただけたら、とても誇らしいですね。

「今日」の連続が、歴史になる

ー谷口さんにとって、西芳寺とはどのような場所でしょうか。

一言で表すなら、西芳寺は「学びの場」です。色々な刺激や発見をもたらしてくれる場所で、どこを切り取っても魅力ばかりだと思います。

また、働き始めた頃、私は1番年下でしたが、いつの間にか最年長になっていました。他の寺務員が熟考したものごとを、「谷口さんならどう考えられますか?」と意見を求めてこられることも増えました。そんな私の姿を学生時代の友人が見たらきっと「別人やん!」と言うと思います。今は、ありがたいことに私のことをお寺の規範になる人とほめていただけることがあるんです。でも正直昔はそんな人間ではなかったですし、今も未熟者だと感じていますよ。

ただ私は、「西芳寺という名前を背負っている」と、常に意識してきたつもりです。考えや意識が変わると、行動も変わる。それによって少しは成長できたのかな、学ぶことができたのかなと、振り返ってみて思います。

ー西芳寺という名前を、とても大切にされてきたんですね。

私たちは「ほんまもん」と呼んでいますが、西芳寺の中で数多くの本物と出会うことができます。

眼の前にみえる西芳寺の景色は、当たり前ではありません。見えないところで管理している人たちの尽力や、蓄積されてきた歴史によって成り立っているものだからです。庭園の苔も同じく、1日や2日で今の姿になったわけではありませんから。西芳寺だからこそ学べたものや気づけたこと、それを少しでも皆様に伝えていけたら良いなと思います。

ー最後に、西芳寺を未来に引き継いでいくために、大切にしていることを教えてください。

私たち寺務員は、歴史には名前が残らないであろう、いわば裏方の仕事です。ただ、今日の連続が歴史なんだ、と。今日がなければ明日がない。今日手を抜いたら明日参拝される方にも影響が出てしまうし、5年先、10年先にも悪い印象を残してしまうかもしれない。「きちんとやるべきことをしよう」という思いで、これまで働いてきました。

他にも数多くお寺がある中で、なぜ西芳寺を守らなければならないのか。それは、ここには「ほんまもん」の魅力が、たくさんあるから。だからこそ、未来につないでいきたいという思いがあります。そして誰にとっても、ここ西芳寺が大切な場所であり続けられるように。そんな未来に向かって、日々を積み重ねていきたいなと思います。

編集:宮内 俊樹・俵谷 龍佑
執筆:小黒 恵太朗
写真:進士 三紗
※許可を得て撮影しています。




*寺務員の仕事に興味を持った方へ*

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