2024.1.25
縁の交差点
クリエイターズインタビュー
長谷川 巧(ディベロッパー)
unshift Inc. 代表取締役。フロントエンド/クリエイティブディベロッパー。
2008年からWebサイト制作に携わり、数社を経て2016年にフリーランスとして活動を開始。2021年11月にunshift Inc.として法人化。
WebGLなどのWebグラフィック技術を用いたWebサイトの実装を多数手掛ける。
https://unshift.co.jp/
ー西芳寺のサイトの演出を手掛けるにあたって大切にしたことを教えてください。
お庭を散策させていただいたときに実際に感じた「空気をまとい・溶け込み・心が調う」という感覚を表現しました。
冒頭の粒子が集まって「調律と閃きの庭」という一行を形成する一連の流れは、西芳寺の空気をまとって、(乱れた)心を調える・組み立てるさまを表現しています。ほとんどわからないかもしれませんが、実は粒子は真っ白ではなく少し緑がかっており、苔を表現しています(文字が構成されるときは白色になっています)。背景の波紋が広がっていく表現は、空気に溶け込む・没入するという感覚をイメージしています。
ーご自身の感覚を表現されたとのことですが、初めて来院された時に印象的だったことはありますか。
「苔寺」という名前は知ってはいたものの、写真でしか見たことがなかったので、入った瞬間に飛び込んでくる一面の苔の世界にまず圧倒され、山の中の涼しげな空気も相まってか、異質な空間に迷い込んだ感覚になりました。違う時間軸の世界に来てしまったのかな、と。京都駅から直接お伺いしたというのもあり、日常の喧騒からのギャップに驚きました。
ー日々の慌ただしさとは対照的な空間で過ごす中で、何か変化はあったのでしょうか。
普段わりと歩くのが早い方だと思うのですが、西芳寺のお庭を散策させていただいたときに、信じられないくらいゆっくり歩いていた自分に驚きました。視覚で楽しむだけでなく、耳を澄ましてお庭の雰囲気を感じ、肌でも空気を感じていました。目を閉じて深く息をしたときに、西芳寺の空気をまとって渾然一体になったような、そんな感覚を覚えました。
ー演出のテーマである「空気をまとい・溶け込み・心が調う」感覚ですね。
今まで旅行などで (そんなに多くはありませんが) いろいろな寺院を訪れていますが、感覚を研ぎ澄ませてお寺全体の空気を感じ取るのは初めてでした。今まではほとんど観光として訪れていたのもあり、寺院を一種のエンターテインメントとして消化しており、ひとつの側面でしか見ていなかったのかなと少し反省しました。
ー観光ではなく、心を調える場としてお寺を訪れると、得られるものが大きく変わってきそうです。長谷川さんにとっての「心調う場」とは、どのようなところですか。
バスケットボールをしているときは、無心でボールを追いかけることで日常のしがらみを忘れられるので、まさに心調う場だなと感じます。
また、趣味のクリエイティブコーディング (プログラミングによって表現を創作すること)をしている時間もその一つです。仕事でも同じようなことをしているのですが、仕事とは違い自由な創作ができることは自分にとって重要な時間です。
ただ、子どもが産まれてからは、家族で過ごす時間が何よりも愛おしく、心穏やかにいられる場となりました。