2024.1.25
縁の交差点
クリエイターズインタビュー
haruka nakamura(音楽家)
青森出身 / 音楽家
5歳で音楽をするため上京。
代表作はミュート・ピアノソロ「スティルライフ」
THE NORTH FACEとのコラボレーション「Light years」シリーズなど。最新作は蔦屋書店の音楽「青い森」。代官山蔦屋書店を中心に展開中。近年では星野道夫・写真展演奏会「旅をする音楽」や、国立近代美術館「ガウディとサグラダファミリア展」NHKスペシャルのテーマ音楽などを担当。minä perhonenのコレクション映像音楽やライブ、写真家・川内倫子、料理家・細川亜衣などとのコラボレーションライブなど多岐に渡る。NHK土曜ドラマ「ひきこもり先生」安藤忠雄、杉本博司などのドキュメンタリーなど様々な音楽を担当。
長い間、旅をしながら音楽を続けていたが、2021年より故郷・北国に暮らし音楽をしている。
https://www.harukanakamura.com
ー今回の楽曲制作で大事にしたポイントを教えてください。
今回は楽曲を制作するにあたり、おおよその映像があったため、インスピレーションの多くをいただくことができました。映像からも感じ取れる苔庭の呼吸、光の訪れ方、そこに流れる時間。音楽製作時には響きの間と、和音と和音の間にある空間のようなものを大切にしました。重要としたのは、メロディよりも、そこにあるけれど目には見えない「間」です。
祈りの場として、時を積んできた静謐さや、長きに渡り精神が宿った場所である西芳寺には、清らかで美しい沈黙を感じますね。
ー今回、「調律と閃きの庭」という新たな西芳寺のコンセプトを軸に、様々な方にご協力いただきました。harukaさんは、「調律」にどのようなイメージを持ちますか。
調律師のメンバーがいたことがあり、調律を習ったり、その作業をよく見たりしていました。ピアニストにとって調律師さんは相棒のようなもの。
ピアノを持って旅するわけにもいかず、各地の演奏会場にあるピアノとはいつも一期一会です。出会ったピアノと仲良くなるために、その子の声を聴きながらゆっくりと対話していくような作業が調律だと考えています。
ー「ピアノと対話する」というのは実に興味深いですね。それは、また音楽を聴くこととは別物なのでしょうか。
調律で音を聴く作業は、音楽を聴くこととは違います。自己の内省に潜っていくような、響きの森の中を探索するような、メディテーションに近い作業のように思います。感覚的には耳を「開いていく」という言葉が似合います。
ーharukaさんにとって「心調う場」とは。
僕はお寺もそうですが、教会も神社も含めて「祈りの場」がとても好きです。居心地が良く、日常的に行くことが多いです。祈りの場では、みなさん沈黙しますよね。
みなさんが沈黙していると、そこに「静寂」が生まれます。沈黙という演奏、そこから生まれる静寂という音楽が最も美しいのではないかと感じることもあります。
そんな空間に長く居ると、時間を手放していけます。
時だけではなく、様々な心のありようを。
多く持ちすぎた荷物を。
庭の水面の光や、葉のざわめき。
風が抜けて行く。
そうした時に、気づくことが多いのです。
「もうひとつの時間」に。
いつのまにか、どうしてこんなに喧騒の流れの中に居たのかということ。
もう少しだけ、静かな日々を取り戻そうと。
それも自分次第だということ。
そして、また立ち戻って行くのです。その繰り返し。
だからまた、僕はたびたび祈りの場にこれからも行くことになると思います。