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2024.1.25

縁の交差点

クリエイターズインタビュー

作道 雄(映画監督・脚本家)

クリエイティブスタジオゲツクロ 代表取締役。映画監督/脚本家。
1990年大阪府出身。京都大学卒業後、2014年に映像制作会社「クリエイティブスタジオゲツクロ」を設立。映画監督として活躍する一方、脚本家としてテレビドラマの脚本なども手掛ける。
監督作に映画「神さまの轍」(2018)、脚本作に映画「光を追いかけて」(2021)、NHKテレビドラマ「ペットにドはまりして、会社辞めました」など多数。監督・脚本作のVRアニメーション「Thank you for sharing your world」は、第79回ヴェネチア国際映画祭のイマーシブ部門(コンペティション)にノミネート・正式招待をはじめ、世界各国の映画祭でノミネート・受賞している。
最新監督作「君の忘れ方(坂東龍汰・西野七瀬 出演)」は2024年度公開予定
https://getsukuro.com

ー西芳寺の撮影で特に大切にしたポイントをお教えください。

実際に庭園に入ると、その幽玄で静謐せいひつな雰囲気に圧倒されました。どのように映像に落とし込んでいこうかと考えましたが、まずはあまりカメラを動かさず、なるべく定点で切り取っていこうと撮影に臨みました。

ー幽玄で静謐な雰囲気を、なるべく映像で表現するために、あえて“静”を意識されたんですね。

場に慣れてくると、静かな庭の中で動いているものが目に留まるようになりました。昆虫や魚、水面や苔についた水滴、朝霧。お堂の壁に揺れる光の反射。
静と動。その揺らめきに気が付いてから、またお庭の見え方が変わりました。新たな視点を得たような気持ちになりましたね。

ー撮影をしてみて、西芳寺のお庭にどのような印象を抱きましたか。

すべての季節を撮影させていただきましたが、季節ごとにお庭の見せる表情がまったく違うことが印象的でした。
春の陽気も、梅雨の寂しさと美しさも、夏の遠くまで晴れた視界も、秋の幽玄さも、冬の侘しさも。すべてが詩的で、止まった時間の中でいつまでも佇んでいたくなる庭だと感じました。

ー西芳寺の庭は、時が止まったような、独特の雰囲気をまとっていますよね。西芳寺で過ごされる中で、特に心に残った瞬間や出会いがあれば教えてください。

普段、撮影をしているときには時間の感覚を強く持っているのですが、西芳寺の庭では、それが無くなりました。「30分くらい撮ったかな」と思うと、1時間経っているなんてことがよくあって。庭では、過ごす時間の感覚が変わるのだと思います。
その結果、精神的に普段は持ちえない、妙な落ち着きで撮影をすることができました。帰る道すがら、ふと別の仕事の良いアイデアが閃いたこともありました。

ー作道監督にとって「心が調う状態」とはどういうことだと思いますか。

「心が調っていない状態」とは、いうなれば過去や未来に気を囚われている状態のことだと思います。失敗や後悔した出来事を思い出したり、未来に対するプレッシャーや過度な期待感から、冷静さを失ったり。仕事や家庭などでそうしたメンタリティになってしまうことから、段々と疲れは蓄積していくのではないでしょうか。
創作活動においても、自分自身を見つめるという作業はとても大事になってきますので、そういう疲れは天敵ともいえます。

ーインターネットを通して、簡単に情報を獲得でき、かつさまざまな人とつながれる時代だからこそ、「今」を大切にする重要性が増していますよね。

そうですね。心が調うというのは、先ほど申し上げた状態のまさに逆。「今」に集中できている、過去も未来も現在の一点に集約されている感覚を手にできていることだと思います。
西芳寺のお庭を一周巡って「今」に集中した時間、過去や未来が自分の中で一瞬、完全に消失しました。そして日常生活に戻った時、再び現れた「過去」や「未来」の捉え方、付き合い方が変わった気がしたのです。
事実、創作が順調な時ほど、過去の筆の経験に頼らず集中できていますし、またこの作品でどうにかなってやろうという欲も完全に無くなっています。
「今」という視座を得て見つめる過去や未来は、決して自分を責めもしないし、煽ってもこない。「調う」の正体は、こういうことではないかと思っています。

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