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2024.12.10

五季風光
その五「苔眠る」
中田昭(写真家)

西芳寺における季節の区切りは、四季ともう一つ、苔が潤いを増す梅雨どきを加えて「五季」と称する。そんな五季の魅力を、写真家の中田昭氏がお届け。百回以上訪れた中で捉えた西芳寺ならではの瞬間をお楽しみください。

@Akira Nakata

鮮やかな紅葉と苔の緑の取り合わせが美しかった11月の庭風景。そんな記憶も気温の低下とともに次第に遠ざかり、師走(12月)を迎えて苔の活動は徐々に休止して深緑色になり、表面を檜葉が覆って庭全体が「眠る」という形容にふさわしい静寂に包まれる。

庭師の宮崎さんは「苔も、ふーっとして休息を取る時間が必要です」と、庭に毎日寄り添う人ならではのことばを語る。冬場は苔の上を掃くことを止め、道具の手入れや普段は手を付けらない垣根の修理などの作業をつづけるという。−2〜3度あたりまで気温が下がり、苔が凍るような状態になっても意外に強いのは、庭全体が木々に覆われ一定の湿度が保たれていることが幸いしているという。小さな体で地面にへばりつき厳しい環境に順応しながら生きている様子を目にすると、いじらしい感じがする。

「一陽来復」とも言われる冬至(12月21日頃)を境に暖かさへの期待も高まるが、実際は寒さが極まってゆく厳しい時期である。やがて畳ひと目づつの歩みで日が長くなりながら次第に明るさも増し、柔らかな光に包まれると、かすかに春を感じ始めた120種類あまりの苔がつぎつぎ目覚め出して活動を始め、黄緑色の小さな新芽も見られるようになって庭全体に生命の息吹が満ちてくる。

「五季風光」は今回で最後となる。自然と時と人の営みの中で繰り返される苔庭の五季の魅力を紹介する連載となった。ぜひ、西芳寺へ一年を通して度々お参りされることをお勧めしたい。




中田 昭(なかた あきら)

1951年(昭和26年)、京都市生まれ。
日本大学芸術学部写真学科卒業。「京文化」をテーマに、風景・庭園・祭りなどの撮影を続ける。(公社)日本写真家協会 会員。
主な著書:『西芳寺新十境』(西芳会)、『源氏物語を行く』『京都の祭り暦』(小学館)、『京都御所 大宮・仙洞御所』『桂離宮 修学院離宮』『京都祇園祭』『・京・瞬・歓・』(京都新聞出版センター)、『日本の庭園・京都』(PIE INTERNATIONAL)など。




※本記事の文章・写真等を無断で引用、転載することを固く禁じます。

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