2024.10.10
五季風光
その四「竹の春」
中田昭(写真家)
西芳寺における季節の区切りは、四季ともう一つ、苔が潤いを増す梅雨どきを加えて「五季」と称する。そんな五季の魅力を、写真家の中田昭氏がお届け。百回以上訪れた中で捉えた西芳寺ならではの瞬間をお楽しみください。
春にタケノコに養分を取られて黄変していた親竹の枝が、初秋になると鮮やかな緑に甦り、若竹も高く成長して「竹の春」を迎える。
苔庭の手入れに欠かせない竹箒は、9月中旬に境内の竹林から切りだした材料をもとに作られる。庭師の宮崎浩司さんによると「材料は一年分まとめて採り、タイミングを見極めて葉を除きます。竹箒は一気につくることをせず、庭掃除が難しい雨の日などに自問自答をしながらつくると、身長や掃き方に合った唯一無二のものが出来上がり、さらに使いこむことによって手に馴染んで愛着が生まれてきます。」
宮崎さんの仕事ぶりを撮影していると、ビロード状の苔の表面は撫でるように、落葉などは掬うといった表現がピッタリな掃き具合で進んでゆく。箒、箕、籠を背負って掃除の場所を移動する足取りは、修行者にも似た軽やかさである。
「西芳寺がいつまでも苔寺であるために」
時代の潮流に流されることなく環境全体を視野に入れ、境内や庭の手入れが続けられている。苑路などには出来るだけ人工物を避け、昔ながらの木の杭や棕櫚縄など自然の素材が用いられる。
参拝者は入山後先ず本堂で写経をして心を落ち着かせたあと庭園世界に入ってゆくことになり、五季の息吹と禅の心を感じながら、束の間のひとときを過ごすことが出来る。
中田 昭(なかた あきら)
1951年(昭和26年)、京都市生まれ。
日本大学芸術学部写真学科卒業。「京文化」をテーマに、風景・庭園・祭りなどの撮影を続ける。(公社)日本写真家協会 会員。
主な著書:『西芳寺新十境』(西芳会)、『源氏物語を行く』『京都の祭り暦』(小学館)、『京都御所 大宮・仙洞御所』『桂離宮 修学院離宮』『京都祇園祭』『・京・瞬・歓・』(京都新聞出版センター)、『日本の庭園・京都』(PIE INTERNATIONAL)など。
※本記事の文章・写真等を無断で引用、転載することを固く禁じます。
関連記事
おすすめの記事
「生と死」