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2024.11.17

縁の交差点(後編)
御立尚資×藤田隆浩

西芳寺で調うということ、閃くということ

縁の交差点(後編)御立尚資×藤田隆浩

ただ美しいだけにとどまらない西芳寺の奥深い魅力を、西芳寺顧問の御立尚資さんと僧侶の藤田隆浩さんが様々な切り口からフランクに語り合った対談企画。後編では、現代のお寺のあり方や、西芳寺が進むべき道についてお伺いします。(前編はこちら

御立 尚資(みたち たかし)
西芳寺 顧問。京都大学経営管理大学院 特別教授。京都大学卒業後、ハーバード大学で経営学修士を取得。日本航空株式会社を経て1993年にボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社し、日本代表・BCGグローバル経営会議メンバーを歴任。現在は京都大学経営管理大学院で教える他、企業の社外取締役や大原美術館理事なども務める。

ありそうで、ない。ないけど、ある。

-現代における西芳寺の役割をどうお考えですか。

藤田:このお寺のいいところは、何もないところだと思っています。歴史はありますが、守るべき寺宝もないですし、檀家もありません。何かを手に入れても、結局は燃えちゃったり、洪水にあったりしちゃうんですよね。今の文化財は、昔のものを残していくという発想になっていますが、 僕は、ない豊かさというか、それすら許容できるのが本来の禅のあるべき姿だと思います。

何もなくても、僕たちはいるんです。このことを、木や苔、先人たち、そして一緒に働いてくれている方から教わりました。だから西芳寺のこの、「ありそうで、ない。ないんだけど、ある。」という感覚を大事にしたいなと思っていて。

御立:すごく面白いですね。例えば観音堂を修繕する時に、派手派手しくする、ということは多分なさらないと思うんですよ。もしそれをやったら、僕も体を張って止めたくなる。

そういう「これは違うよね」というものはある。歴史や時間の多層性を踏まえると「この方が西芳寺らしいよな」というのもある。でも、それを明文化したものがあるわけではないんですよね。

藤田:そうですね。

一人一人にインパクトがあるお寺へ

御立:僕はアートが好きなのですが、アートには「サイト・スペシフィック」という言葉があります。

藤田:特定の場所で、その特性を活かした表現をすることですよね。

御立:この時、アーティストが大変な努力をして作られていても、それを見た人がその場その場で自ら意味を求めないと、「ここでしかないもの」は生まれないんですよ。西芳寺で言えば、ご縁があって繰り返し来るような方々が、何かに思いを馳せながら歩くことで、本当のサイト・スペシフィックを作るんだなと思っています。

今の仏教は、各宗派の本山を頂点としたピラミッド構造になっていますが、これは江戸時代に、徳川家が政権と仏教を結びつけるために作っちゃったものなんですね。そして明治時代になって、 お墓は家単位で継承していくものになりました。でも、本来の仏教や禅というのは、決まったルールや制度が先にあったのではないはずです。

これからの仏教は、一人一人それぞれにインパクトがある機会を作っていく必要がある。そのためにはお寺という場が必要で、そこは変えちゃいけない。けれど、変えるべき何かというのは必ずある。うまく言えませんが、この「ないけど、ある」を見極めていけば、インパクトは自然と出てくるのかなと思います。

藤田:そこで大事なのは、仏教は面白いんだと伝えることだと思います。仏教が2500年も続いているのは、日常に取り入れることができて、生きる糧になるからです。たとえば日本では、ありがたいことに豊かな生活をしている人たちもいますが、豊かな生活をしていても、貧しい人生を歩んではいけないんです。だから、豊かな人生を歩むために仏教が必要だよね、というのをきちんと伝えていくのが、お寺の役目なのだと思います。

御立:仏教は、西欧的な宗教論で言うとすごく不思議で、旧約聖書や新約聖書のように唯一の聖典がないですよね。長い歴史の中で、いろいろな種類の経典が作られています。

人間の力が及ばない生老病死の拠り所としての宗教性は確かにありますが、一方で、哲学の要素もあって。経典を読むと、今の最先端の物理学や天文学の人たちと似たような考え方をしている部分があるんですよね。それともう一つ、特に禅には、身体性が強くあります。坐る、呼吸する、西芳寺なら歩く。こういう自分が調う感覚を作る技術という側面も明らかにあるんですよ。

だから、西芳寺への入り口として、宗教・哲学・身体的技術のどこから入ってもいいですよと伝えたいですね。それぞれ全部回ってみる人がいてもいい。そういう多様な入り口を作っていくのが私達の責務だし、それから逃げちゃいかんのかなと思いますね。

次世代への循環をつくる

藤田:あとは若者のための入り口も作りたいです。西芳寺では「30歳以下の日」や大学生インターンを設けていますが、若いからこそ感じられる豊かさを経験できる場づくりは、今後もぜひ取り組んでいきたいと思っています。

御立:次世代のために。というのはお寺の責務として絶対にあります。自分の思春期を思い返しても、自分ってなんだろうということに、若い時は真剣に悩むわけです。そういう時に身体を使うことで、救われたことがありました。

お庭の掃除だとか、いろいろな手伝いをする機会を若い人に提供できると、自分が悩んでいることを、もう少し客観的に見ることができるのではないでしょうか。我々の世代は、そこに対して時間とお金を出すことで支援できるといいですよね。例えば若い人が合宿のように一か月滞在するなら、その食費分はみんなで寄付しましょうとか。

藤田:自分の生まれたことに感謝をして、次世代への循環を作って、それが全体のハッピーに繋がっていく。そういう、豊かに生きるということを再定義して世に出していくことが、お寺の役割なのだろうなと、改めて思いました。

聞き手・編集:宮内 俊樹
執筆:細谷 夏菜
写真:望月 小夜加
※許可を得て撮影しています。

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