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2024.7.1

五季風光
その三「大賀ハス」
写真家/中田昭

西芳寺における季節の区切りは、四季ともう一つ、苔が潤いを増す梅雨どきを加えて「五季」と称する。そんな五季の魅力を、写真家の中田昭氏がお届け。百回以上訪れた中で捉えた西芳寺ならではの瞬間をお楽しみください。

@Akira Nakata

まばゆい日射しに包まれる夏の西芳寺。玄関前の蓮池に咲くピンク色のハスが優しく参拝者を迎える。仏教の世界では、ハスは極楽浄土に咲く花といわれ、泥より生まれて泥に染まらない清らかさの象徴とされている。ここ西芳寺で目にするハスは、約2000年の眠りから目覚めた種子が発芽して咲いた、「大賀おおがハス」と呼ばれる種で、昭和33(1958)年、西芳寺にもその根が贈られて寺内で大切に育てられた結果、八年目にして全ての株に開花がみられたという。

昭和26(1951)年、ハス博士の大賀一郎氏(1883-1965)が、千葉県検見川の地中を5.5メートル掘り下げたところ、泥炭層に残っていた丸木舟の中に三粒のハスの種子を発見。それを試しに蒔いたところ、一粒が奇跡的に発芽して花を咲かせたといわれる。炭化した丸木舟とハスの種子をアメリカに送ってカーボン分析したところ2000年以上たっていることが判明、発見者の名を冠して「大賀ハス」と名付けられた。

ハスは通常、蕾が開くまでに20日ほどかかり、咲きはじめると花の命はわずか4日間。一度開き始めると温度や光の強さに関係なく内部で刻まれる生物時計に従って花の状態が推移してゆくといわれる。開花して3日目になると花径が最大となり、4日目を迎えると花弁が少しづつ散り始め、夕方には完全に落ちてしまう。懸命に咲き、花托かたくを残して散華さんげした姿を目にすると、「無常迅速むじょうじんそく」ということばが心に響いてくる。




中田 昭(なかた あきら)

1951年(昭和26年)、京都市生まれ。
日本大学芸術学部写真学科卒業。「京文化」をテーマに、風景・庭園・祭りなどの撮影を続ける。(公社)日本写真家協会 会員。
主な著書:『西芳寺新十境』(西芳会)、『源氏物語を行く』『京都の祭り暦』(小学館)、『京都御所 大宮・仙洞御所』『桂離宮 修学院離宮』『京都祇園祭』『・京・瞬・歓・』(京都新聞出版センター)、『日本の庭園・京都』(PIE INTERNATIONAL)など。




※本記事の文章・写真等を無断で引用、転載することを固く禁じます。

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