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2024.5.20

西芳寺百景 「苔庭に惹かれて」

ピーター・J・マクミラン/翻訳家・詩人

苔庭に惹かれて

今日から、長年の念願である一方で不安も溢れる、そんな旅が始まります。私は30年以上前に初めて西芳寺を訪れ、その魅力に心惹かれました。それからというもの、何年にもわたり訪問を繰り返すたび、特別で神秘的な雰囲気に包まれたものです。5年前、ありがたいことに観光庁のプロジェクトの一環として、西芳寺の翻訳業務を担当することに。そして2年半前、京都に移り住んで数日経ったころに、西芳寺の藤田隆浩執事長から連絡をいただき、当時お寺で制作されていた書籍の制作に携わらせていただくことになりました。それ以来、共に多くのプロジェクトに取り組んできたのですが、今回新たに取り組むコラムの執筆は、今まで以上にワクワクします。

京都で暮らす家から西芳寺までは自転車で20分ほど。かの有名な渡月橋を渡り、桂川に沿って自転車を走らせ、松尾大社を通り過ぎ、さらに山の麓沿いをカーブする裏道から、松尾大社、月読神社、鈴虫寺を通り過ぎていく、なんとも素敵な道のりです。途中、月読神社に立ち寄って参拝し、心を清めてから西芳寺へと向かいます。

西芳寺のお庭を訪れるたび、これまでの訪問を思い出すかのような懐かしさで心がいっぱいになると同時に、まるで初めてこの場を訪れたかのような、新鮮さや素晴らしさを感じました。その中で、四季折々の庭を見に来たい、その折々のことを書き綴っていきたいという想いが私の心に芽生え始めたのです。だからこそ、藤田執事長から西芳寺について書いてほしいと頼まれたときは、胸が高鳴りました。

それなのにどうして、旅を始めるにあたって不安が溢れてくるのでしょうか?

思い当たる節はたくさんあります。私は日本語で新聞のコラムを2つ掲載しているので、コラムの執筆には慣れているのですが、どちらも事前にお題が決まっており、悩まずに書き進めることができました。しかし、西芳寺での執筆には、決まったお題はありません。お庭と対峙する中で、その都度私が感じたことをもとに、何を書くか考えてゆかなければならないのです。

私にできるでしょうか?

そのために、私はこれから素直さを忘れず、心をオープンにしてお庭と向き合ってゆきたいと思います。期待や先入観は捨て去り、物事をありのままに受け入れる気持ちを持ち、折々のお庭に身を委ねきってゆく必要があるのです。このコラムでは、私と苔庭について書き綴ることにしました。このお庭とあたたかく親しい関係を築いていくとともに、木々、植物たち、石、そして苔…それぞれへの理解を深めてゆけたら、と思います。

また、禅寺である西芳寺を巡るこの旅は、自分自身をより深く知り、自分の限界と可能性に気付く精神的な旅になると感じています。西芳寺を訪れるたびに坐禅を行い、人生にとって豊かな時間を過ごしてゆくでしょう。

そして、私がこの苔庭で経験したことをお伝えすることで、読者である皆さんにも西芳寺との繋がりを実感していただき、私と共にこのお庭をより身近に感じていただければと思っています。西芳寺まで足を運べないときであっても、心にこの素晴らしい苔庭を思い浮かべ、お参りしていただけますように。





Peter MacMillan ピーター・J・マクミラン

翻訳家・詩人。株式会社 月の舟(制作・翻訳会社) 代表取締役。
2008年に英訳『百人一首』を出版し、日米で翻訳賞を受賞。2016年9月には英訳『The Tales of Ise』(伊勢物語)、2017年には英訳『One Hundred Poets One Poem Each(新訳)』の2冊がPenguin Booksより出版される。近著に『日本の古典を英語で読む』『英語で味わう万葉集』など著書多数。2019年より朝日新聞にて「星の林に」、2022年より京都新聞にて「不思議の国の和歌ワンダーランド 英語で読む百人一首」を連載。

翻訳:福田安奈

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